ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 64(2): 118-121 (2025)
doi:10.11481/topics245

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正常脳および傷害脳におけるニューロン移動制御メカニズムの解明

名古屋市立大学大学院 医学研究科 脳神経科学研究所 神経発達・再生医学分野

発行日:2025年12月30日Published: December 30, 2025
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はじめに

胎生期から小児の脳では新生ニューロンが移動し、脳を形成する。目的地まで適切に新生ニューロンを移動させることが正常な脳機能の構築に重要であり、ニューロン移動の破綻は様々な脳疾患を引き起こすことが知られている。ニューロン移動は胎生期や小児脳の脳形成だけではなく、成体脳においても生じている1)。成体におけるニューロン新生領域の一つである側脳室-脳室下帯(V-SVZ)では、神経幹細胞から持続的に新たなニューロンが産生され、吻側移動流(RMS)を高速移動し、嗅球まで到達し、成熟することで既存の神経回路に組み込まれる2–6)。RMSを移動する際に、新生ニューロンはchain migrationと呼ばれる新生ニューロンが密に連なった移動形態を示し、移動している新生ニューロンが互いを足場にしながら移動する集団的な移動形態である。また、このchain migrationが脳傷害時に傷害部へ移動する際にも認められることを著者らの研究室では明らかにしてきた7–10)。傷害部まで移動した新生ニューロンは成熟することで神経再生に寄与していると考えられている。適切なニューロン移動の調整は成体の脳内においても脳機能の維持や神経再生に重要である。これまでの研究により、成体の脳内を移動する特徴としてchain migrationという集団移動が明らかとなった。脳傷害時にもchainは形成されるが、その移動効率は悪く、傷害によって失われた脳機能は自然に回復しない。正常脳内において、なぜそれぞれが活発に移動する新生ニューロンが集団で移動することができるのかは不明であった。また、なぜ傷害脳のchainは正常脳のRMSを移動する新生ニューロンのchainのように効率よく移動できないのか、原因は不明であった。本稿では、正常脳および傷害脳におけるニューロン移動制御メカニズムに関する著者らの研究成果を紹介する(図111, 12)

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 64(2): 118-121 (2025)

図1 正常脳および傷害脳におけるニューロン移動制御メカニズム

正常脳内のニューロン移動を制御する細胞小器官の発見

一次繊毛は、細胞外のシグナルを受け取るアンテナとして働いているが、生体脳内を移動する新生ニューロンの一次繊毛は、その存在すら明らかにされていなかった。著者らの研究により、一次繊毛が新生ニューロンに存在することが明らかとなり、これは、魚類から霊長類まで進化上保存されていることが分かった。また、一次繊毛の形成に重要なKif3AやIFT88遺伝子の発現を抑制させると、ニューロン移動が阻害されることが明らかとなった。さらに、タイムラプスイメージングと連続ブロック表面走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)による解析を行ったところ、生後脳内を移動する新生ニューロンの一次繊毛は細胞質内に埋もれているが、細胞体を移動させる直前に細胞外に露出することが示唆された。また、一次繊毛の方向は細胞体を移動させる際に前方に向きを変えることが明らかとなった。これらの結果から、生後脳内において、新生ニューロンの一次繊毛は時空間的に局在と方向をダイナミックに変化させていることが示唆された。これらの研究から、脳内を移動する新生ニューロンに一次繊毛が局在すること、そして移動する新生ニューロンの一次繊毛は動的に局在を変化させることを示し、ニューロン移動と一次繊毛の動的な局在変化に相関があることが明らかになった(図111)

正常脳および傷害脳内を移動する新生ニューロンの微細形態

著者らは、正常脳および傷害脳においてchainを形成し、互いに接着しながら移動する新生ニューロンの細胞接着に着目し、ニューロン移動制御メカニズムを詳細に解析した(図112)

まず初めに、なぜ新生ニューロンは正常脳内を高速移動できるのかを調べるために、SBF-SEMを用い、三次元的な微細形態解析を行ったところ、密に接しているように見えるchain内では、新生ニューロン間に非接着領域が無数に存在していることが明らかとなった。正常脳内を移動する新生ニューロンのchain migrationでは、新生ニューロン間に無数の非接着領域があることにより、接着し過ぎないようにすることで、高速移動を可能にしているかもしれない。次に、傷害脳内を移動する新生ニューロンの三次元微細構造を調べたところ、新生ニューロン同士の接着が増大する一方で、非接着領域が減少していることが明らかとなった。これらの結果から、正常脳では、非接着領域の存在により効率的なニューロン移動が可能だが、傷害脳では非接着領域が減少することにより、過剰な接着が生じ、ニューロン移動の効率が悪くなっていることが示唆された。

傷害脳におけるポリシアル酸の減少およびノイラミニダーゼの高発現

なぜ傷害脳では非接着領域が減少し、過剰な接着が生じるのかを調べるために、ポリシアル酸(PSA)に着目した。PSAは新生ニューロンの接着分子の一つであるNCAMに付加される糖鎖であり、細胞表面にPSAが存在することで細胞間の相互作用を負に制御すると考えられている。正常脳および傷害脳における新生ニューロンのPSAレベルを調べたところ、正常脳の新生ニューロンに比べ、傷害脳の新生ニューロンではPSAが減少することが明らかとなった。傷害脳におけるPSAレベルの減少の原因を調べるため、PSAを切断する酵素として知られているノイラミニダーゼに着目した。ノイラミニダーゼにはサブタイプが4種類(Neu1, Neu2, Neu3, Neu4)存在している。これらのノイラミニダーゼの発現を調べたところ、Neu1とNeu4が特に傷害脳において高発現していることがわかった。さらに、傷害脳では活性化したアストロサイトやミクログリアなどのグリア細胞からNeu1およびNeu4が分泌され、傷害脳内において高発現していることが明らかとなった。以上の結果から、傷害によって活性化したグリア細胞からノイラミニダーゼが分泌されることで、傷害部に向かって移動する新生ニューロンではPSAが切断され、非接着領域の減少および過剰な接着を示すことが明らかとなった。

ノイラミニダーゼ阻害によるニューロン移動・再生促進および脳機能回復

傷害により高発現するノイラミニダーゼを抑制することで、新生ニューロンの移動を促進させることができるのかを調べるために、高発現していることが明らかになったNeu1とNeu4に着目し、傷害脳周囲においてNeu1もしくはNeu4の発現抑制ウイルスを感染させると、新生ニューロンのPSAは維持され、傷害部に向かって移動する新生ニューロンが増加することが示された。さらに、ウイルスによる局所的なノイラミニダーゼ抑制ではなく、より広範囲に治療効果を広げるために、ノイラミニダーゼ阻害剤の投与をおこなった。ノイラミニダーゼの阻害剤として、抗インフルエンザ薬剤として臨床でも使用されているzanamivirを用いたところ、傷害部へ向かって移動する新生ニューロンのPSAは維持され、ニューロン移動が促進することが明らかとなった。さらに、傷害部近傍においてニューロン再生が促進することも示された。そこで、傷害によって失われた脳機能を回復させることができるかを調べるために、歩行機能テストを行ったところ、ノイラミニダーゼ阻害剤投与群において、脳機能が回復することが示唆された。

霊長類脳傷害におけるノイラミニダーゼ阻害の効果

臨床薬での効果が認められたことから、ドラッグリポジショニングの可能性があると考え、最後に霊長類脳傷害におけるノイラミニダーゼ阻害の効果を調べた。マウスと同様に、霊長類脳傷害においても、傷害部へ移動する新生ニューロンのPSAの減少が認められたが、ノイラミニダーゼ阻害剤を投与することにより、PSAが維持され、傷害部へのニューロン移動が促進されることが明らかとなった。

おわりに

著者らの研究では、生体脳においてニューロン移動を制御する一次繊毛の発見にはじめ、正常脳内では新生ニューロン間に豊富なPSAが存在することで非接着領域が多数存在し、互いに接しながらも、接着し過ぎない適度な接着状態を保つことで、高速移動を可能にしていることが示唆された。一方で、傷害脳では、傷害によって活性化したグリア細胞からノイラミニダーゼが分泌され、PSAが減少してしまうことで、過剰な接着が生じ、移動効率の低下を招いていることが示された。ノイラミニダーゼを阻害することにより、PSAは維持され、ニューロン移動およびニューロン再生と脳機能回復が認められ、根本的な治療法がないと考えられてきた脳傷害の新たな治療法につながることが期待される。

謝辞Acknowledgments

本研究は、名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経科学研究所神経発達・再生医学分野において実施いたしました。特に、日頃から熱心にご指導をいただいております名古屋市立大学神経発達・再生医学分野の澤本和延教授に心より深く感謝を申し上げます。また、三次元電子顕微鏡解析を行う上で、特にお世話になりました自治医科大学の大野伸彦先生には、本研究の根幹となる三次元的な微細形態解析において大変お世話になりました。これらの研究は、著者が大学院生の頃からの研究成果をまとめたものであり、特に大学院生時に熱心にご指導を賜りました名古屋市立大学神経発達・再生医学分野の澤田雅人講師を始め、様々な先生方にご指導やご協力をいただきました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。

また本稿にて紹介いたしました研究内容は、科学研究費助成金、AMED-CREST、AMED幹細胞・再生医学イノベーション創出プログラム、キャノン財団、テルモ生命科学振興財団、武田科学振興財団、日東学術振興財団をはじめとする多くの助成を受けて実施いたしました。これらの支援に深く感謝申し上げます。

本稿の執筆の機会をいただきました日本神経化学会、優秀賞・奨励賞選考委員会及び出版・広報委員会の先生方に深く感謝申し上げます。今後も神経化学のさらなる発展に貢献できるように努めて参りたいと存じます。

引用文献References

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