ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 64(2): 126-127 (2025)
doi:10.11481/topics248

若手研究者育成セミナー参加レポート若手研究者育成セミナー参加レポート

悩みはカルシウムイオン、覚悟はシナプス形成

九州大学医学系学府医学専攻 神経内科学分野・D2

発行日:2025年12月30日Published: December 30, 2025
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「女性に生まれたからには、全部やり切る!」

この言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが“脱分極”した。2025年夏、日本神経化学会若手研究者育成セミナーに参加した私は、キャリアとライフイベントの狭間で悩み続けていた。出産、育児、留学、論文、科研費——研究者としての道は、まるで複雑な神経回路のように絡み合っている。そんな私にとって、このセミナーは、悩みを語り、覚悟を育てる場となった。

———参加のきっかけと背景

初めてセミナーに参加したのは昨年。きっかけは、2023年の神経化学会懇親会で、育成セミナー経験者たちが繰り広げる熱いディスカッションを目の当たりにしたことだった。すでにネットワークが形成され、研究者としての悩みや展望を真剣に語り合うその空気に圧倒され、「私もこの輪に入りたい」と強く思った。そして今年、2回目の参加を果たした。

———セミナーの構成と雰囲気

セミナーは、学生4名・講師1名・チューター1名という少人数グループで構成されていた。チューターは博士号取得済みの若手研究者で、学生と講師の間をつなぐ“神経伝達物質”のような存在。議論が行き詰まったときに助け舟を出してくれる心強い存在だった。講師陣との対話は2回に分けて行われ、全体討論会では立食形式で自由に交流できる場が設けられていた。私は話したことのない人に積極的に声をかけ、悩みや研究について語り合った。

———講師との対話:悩みと覚悟の形成

桐生寿美子先生との対話では、出産や留学のタイミングについて相談した。私はあまりにも悩みすぎていたが、先生は終始笑顔で、力強く、そして軽やかに「研究は楽しいから続けられる。悩むこともあるけど、楽観的に考えるのも大事。」と語ってくださった。その言葉に、私は自分が“悩むことに囚われすぎていた”ことに気づかされた。先生の姿は、研究に一途でありながら、人生を楽しむことを忘れない。そのバランス感覚に、深く心を動かされた。

坂内博子先生との対話では、「人生に正解はないから、自分の人生を最適解にする」という言葉をいただいた。この一言は、私の中で大きな転機となった。正解を探すのではなく、自分で選び取った道を最適解にしていく。その覚悟が芽生えた瞬間だった。

東田千尋先生との対話では、「女性に生まれたからには全部やり切る!」という力強い言葉をいただいた。さらに、出産後のメリットとして「仕事が早くなる」と語られたことも印象的だった。子どもの突発的な発熱など、予測不能な事態に対応するため、計画性と効率が自然と身につくという。不安を抱えていた私にとって、こうした現実的な視点は大きな安心材料となった。

———研究紹介と反応

私は自身の研究テーマである神経障害性疼痛について紹介し、我々が見出した疼痛増悪因子SEMA3Eが複数の病態に関与する可能性について議論した。Semaphorin分子群に詳しい参加者もおり、疾患横断的な治療応用の可能性に関心を持ってもらえたことは、研究の方向性に自信を与えてくれた。

———参加者との交流:層の厚さとリアルな悩み

博士課程2年で科研費に採択された同年代の研究者、学部1・2年から研究室に通い始めている学生、今年からポスドクや助教として活躍している方々など、層の厚さに驚かされた。助教や講師の先生方からは、研究費獲得の現実的な戦略や、キャリア構築のマイルストーンについての生の声を聞くことができた。学生から教授まで、幅広い層が集うこのセミナーは、まさに“キャリアの縮図”とも言える場だった。

———セミナーを通じた変化と未来への視点

セミナーを通じて、私は改めて「論文を積み重ねることの重要性」と「出産・育児・留学のタイミングは悩んでも仕方ない。どうにかなる!」という覚悟を得た。そして、何よりも大切なのは、悩みを共有できる仲間の存在だと感じた。育成セミナーで築かれたつながりは、何年にもわたって続くという。実際、2013年のセミナーを機に出会った先生方が今も交流を続けているという話を聞き、私もこの出会いを大切にしていきたいと思った。

このセミナーは、研究者としての技術や知識を磨くだけでなく、人生そのものをどう歩むかを考える場でもある。悩みはカルシウムイオンのようなもの。過剰に流入すれば細胞を疲弊させるが、適切に制御すればシグナルとなる。悩みを語り、覚悟を育てる。そんな濃密な時間を過ごせたことに、心から感謝している。

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